レンは代行を睨んだ。どこ吹く風、といった代行は、相変わらずにこにこしている。
「謀ったな?」
 レンの訝しげな言葉に、もちろん、と代行が頷く。
「最初からRavenだけでやるつもりだったんだろう?」
「あったりまえじゃないですか。お頭、演技できないでしょ。「AlbAtrossなんてノーカウントの戦力だから、Ravenだけで行動するつもりでいきましょう。話し合いはうまく誘導するつもりでヨロシク」なんて俺が言ったら、応接室入った時点でバレそうですもん。AlbAtrossの連中が相手とはいえ、ある程度は騙す気でいかないと」
「代行、話はその辺で。会議室に全員待機させてますから。図面も出してありますし、皆さん、大体のことはわかっているでしょう」
 ルイが促した。ルイの言った「大体のことはわかっている」なんて嘘だ、とレンは思った。代行の差金が、この騙し討ちだけで済むはずがない。
 3人が会議室へ行くと、先日の「ほぼ全員」メンバーがそろっていた。各々、図面を指さしたり、コマのようなものを置いたりして、盛り上がっている。
「大した演技力だよ、お前ら。やけに大人しいとも思ったがな。あの状況で、ルイと代行以外、発言しなかったのは妙だった」
 全員が、レンの方を見る。
「代行のさしがねでーす。俺ら悪くありませーん」
「今発言した奴、後で甲板に来やがれー。代行さんがオシオキしちゃうぞー」
「それで? 全員で騙し討ちしてくれたことへの対価は、用意できてるんだろうな?」
 レンは、会議室を見渡した。
「今回の作戦については、ばっちり審議済みでーす! というわけで、作戦のポイントを各自述べます!」
「明日の22から、重役の会議があります。要は人質です。上層部なんて、もう現場には出てないでしょうから。たまにはスリリングな体験させてやらないと。人質にするのは副社長、外見は痩身の白髪だとか」
「退路も、もっちろん抜かりありませんぜ! 牢獄までは一本道。つまり、入り口が出口になるわけです。btcの連中で塞がれないようにする必要があるわけですから、いつものアレも使いますし、なんと今回は代行秘蔵の」
「牢獄へのルートの確保もばっちりです。一部のルートには、罠を仕掛けます。仕掛ける箇所も決定済みなので、図面を見て覚えてくださいね。もちろん、罠はRavenイチの罠使いであるアルカディが、最高傑作と称するような逸品で」
「牢獄の鍵は、お頭の魔術でドカーンと。通常の牢獄ならウチでも開けられるんですが、btcの直轄、しかも独房ときたら、普通の方法では開きません。魔術的施錠と聞いてますから、これはもうお頭の出番でしょう! しかも一番おいしい、救出そのものですぜ!」
「代行の知り合いが、ソルスティス付近で事件を起こすそうです。その数、100近くもなるとか。普段は仕事をしていない連中だから、この機会に働かせてやりましょうよ。公務公務って、サボってる時間の方が長いんですから、あいつら」
 それぞれが、好き勝手に作戦のポイントを述べる。順不同で述べるものだから、いったいどういう趣旨のものなのか、さっぱり分からない。
「一度に喋るな、聞き取れない」
 レンがため息をつく。間違いなく、代行の入れ知恵だ。
「あとは、ルイと代行からまとめて聞く」
「いいんですか、それで? 異議があったら変更がめんどくさいじゃないですか!」
「お前らなら完璧に出来るだろう? 何のための代行の発案で、何のための人員だ」
 一拍おいて、歓声が上がった。会議室を、熱気が満たす。
「全面信頼! ぜんめんしんらい! いえーい!」
「Ravenの時代が来るぜー!」
 椅子から立ち上がって、ハイタッチする者までいる。この突然の熱狂っぷりは、いかにもRavenの構図だ。
 レンは、苦笑した。
「静かにしろ。ところで、代行」
「あっ、持病の貧血が。俺、医務室に行ってきます」
「わざとらしいにも程がある。昨晩、集まって会議をしてたんだな?」
「ういうい、そうですよー。だってさあ、あいつら全員で参加されたら、面倒でかなわないですよ。俺たちだけでやった方が手っ取り早い。あいつら、従わなそうだし。従わないのが20人、つまり戦力外が20人。無駄な足手まといじゃないですか」
「なるほどな。今回の作戦の発案は、ほとんどがお前とルイだな?」
「ええ、そうですね。皆さんの意見も交えつつ、色々と小細工を考えましたよ。小細工担当は、完全に代行の発案ですけれど」
 と、ルイが代行をちらりと見た。
 普段、代行は「出向」という形で、他の盗賊団の手伝いをしている。小手先の作戦ならお手のものの代行だが、それがRaven内で発揮されたことはなかった。つまり、Ravenに大してやる気がゼロだったのだ。
 そんな代行が、あれはこうしてこれはこうして、と積極的に発案した。本気になりかかっている、とレンは思う。これは本気で考えないと、ずるずると居座ることになる、と。
「だって仕事はRavenだけでやりたいしね! 異分子は排除排除ー!」
 代行とその周辺が盛り上がる中、そういえば、と発言する者がひとり。
「お頭、雰囲気変わりましたね。落ち着いた、というか」
 ああ、とレンが頷く。
「記憶が戻ったからか、イライラしなくなったな」
「いや、ていうか記憶喪失だなんて知らなかったし! 初耳!」
「今は記憶があるからな。どうでもいいだろう、その辺は」
「以前は、話しかけづらいというか、むしろ話しかけたくなかったですもん」
「ぶっちゃけすぎでしょお前」
 笑いが広がる。雑談へ、話がシフトしてくる。
「いやー、何か楽しくなってきたなあ! これで副長がいればなあ!」
 とたん、会議室は静かになった。代行が、発言した者を睨む。
「「元副長」な? 言葉は正しく使おうぜ?」
「す、すみません」
 とたん、緊迫した雰囲気になりかかっる。流れを無視しないよう、かつ話題を変更しようと、一人があわてて喋りだした。
「い、今は代行が副長だもんなあ。もともと、「副長代行」の代行だし。あれ、なんで代行は「代行」っていうポジションなんだっけ?」
「代行が「俺は代行だから。昔からそう呼ばれてたから」って言ったからじゃね?」
「副長のいないこの状況で、代行は副長の役割をするんですよね? でも代行って呼んだ方がいいんですか?」
「俺は「代行」以外の呼び掛けには応じないからな!」
「ほら、明日の準備を開始しろ。俺と代行とルイは、このまま会議室にいる。何かあったら呼べ」
 了解です、と全員声をそろえ、会議室を出て行った。じゃ、俺の考えを話しましょう、と代行が口を開いた。